Interview

音楽監督 永峰大輔
インタビュー   (2/3)

常盤:
 実際プリモを続けてこられて、手ごたえはどう感じていますか。

永峰氏:
 やっぱり、聴きに来てくれたお客さんが、こんな演奏を聴いたことがなかったといってくれる。それは素晴らしいことだなと思うし、そこに手ごたえを感じるよね。

常盤:
 僕もその一人です。

永峰氏:
 ありがとう。それが僕の気分だけで音楽やってるならNGだけど、幸いにして僕が集めたメンバだけあって、いい意味で口うるさいやつが多くて、相当納得しないとやってくれない(笑)口に出さなくても、プレイで反抗してくる。俺にはわかってる(笑)だから、プリモはみんなで音楽を作り上げていると思うその上で、プリモの音楽が面白い、新しいっていう感想をお客さんが持ってくださるのは、本当に素晴らしいこと。さらに言うなら、プリモに参加したメンバが、リハーサルや本番、勉強会を通じて、今までにない新しい感覚を体験することが、とても大切な事なんだと思う。「新しい」って感覚は、最初は奏者だけでいいかもしれない。たとえば、いままでブラ2〔=ブラームス交響曲第2番〕をあちこちで弾いてきたけど、こんなのやったことない、みたいな。それがだんだん聴いている人に浸透していくといいな、と思ってる。

常盤:
 まさに第7回演奏会のブラ2は、とても衝撃的でした。最後まで終わったとき、一瞬唖然として、そのすぐ後に、「あ、そうか」と腑に落ちたような感じです。僕はそのとき袖で聴いていましたが、こんなブラ2があるんだっていう印象でした。とても面白かったです。

永峰氏:
 結局音楽って、面白くないと誰も聞かないんだよね。そして、世の中面白くないクラシック音楽で溢れているから、クラシック業界って死んでるんだと思う。これは僕たち指揮者を含めて演奏家のせいだよ。クラシック音楽を聴いてもらうためにアウトリーチして子供たちに聴いてもらうってのもいいけど。本当に僕たちが今やんなきゃいけないのは、クラシックを面白いって感じて、それを面白いって思わせる努力なんだよ。今の演奏家たちは、それをやらなすぎる。

常盤:
 ある種そういった時代の中にあるからこそ、プリモの面白さって、良くも悪くも「しぶい」と思うんですよね。この「しぶさ」を永峰さんは人々にどのように伝えたいと思っていますか。

永峰氏:
 もし「しぶい」と常盤くんが思っているなら、それは僕たちのやってることの努力がまだ足りないってことだと思う。つまり、音楽の面白さってのは万人にわかることだから、面白いことが分からない状態を作っているのは演奏家なんだよ。わかりにくいとか、専門性があるとか思われている段階ではまだ努力が足りない。そうではなく、普通に、何か面白いから聞きに行ってみたいと思われるオケになりたいし、そういう指揮者になりたい。永峰が振るんだったらおもしろそうだな、みたいな。

常盤:
 いま音楽家が頑張らないといけないところがまだまだある、といった中で、その第一ステップとして、いま目の前にある永峰さんの課題、そしてプリモの課題とは何でしょうか

永峰氏:
 僕の今の課題は、大きな視点でとらえること。すごく細かいところに興味が行きやすいタイプだから、その音楽に全体としてどういう物語があるのかに意識しないといけないと思ってる。いままでは、細かいものを積み重ねていけば自動的に音楽ってものは発展していけるものだと思っていた。もちろん今でもそう思っているけど、今は、それに加えて、その部分部分がどういう風に活きていくのだろうか、音楽全体の中で機能していくのだろうか、有機的に息づいていくのだろうかってことを考えるようにしないといけないなって考えていて、それを意識するようにしている。

 プリモの課題は、どうしてもリハの回数が少ないから、最初のリハまでにやっておいてほしいことがたくさんあるのに、それができなくてリハが無駄になっていることがたくさんあるところだね。弾けないところを弾けるようにしてあげるのは指揮者の仕事じゃないからさ。さらに言うなら、みんな、もっと、自分たちはすごいことをやろうとしているんだってことを共有してほしいプリモがやろうとしていることはほかのオケではやってないし、プリモが意識していることはほかのオケは意識していない。その特別さみたいなのを共有してほしい。

常盤:
 ではそのプリモを聴きに行くにあたって、音楽はそれなりに好きで、でもあまり詳しいわけではない、いわゆる普通のお客さんにとってのプリモの楽しみ方を教えてください。

永峰氏:
 そうだね、むしろ何も知らない状態で来てほしい。音楽ってのは、知らないと聴いちゃいけないんじゃないかって思ってしまう人が多いと思う。でもよく考えてみると、どんなクラシック音楽でも、初演されるときって誰も知らないじゃない。僕たちは普段たくさん練習するしCDも聞くし、その意味で、半分くらい楽しみ方を失っているんだよね。「知っている」っていうことは、ある意味不幸なことなんだ。だからこそ、「初めて聴く」ってことはすごいことなんだよ。すべてが発見なんだ。これはとても幸せなことだよ。

 あとはコンサートに足を運ぶってことなんだけど、音楽って不思議なもので、音ってエネルギーで、人が演奏するってことは人がエネルギーを使って音を出してるってことだから、コンサートってのは、お客さんに奏者のエネルギーが伝わる場所なんだ。その意味で、何も知らなくてもいいから何かを受け取ってほしい。正しい聴き方とか楽しみ方とかは僕たち作り手が考えることだから、それを聴く人に求めちゃいけない。聴く人は、何にも考えないで、楽しかったとか、つまんなかった、とかでいい。それを、楽しかったと思わないといけないんじゃないか、とか、つまんなかったのは自分のせいじゃないかとか、そういうことは思わないでほしい。それは全部こっち側の問題。ただただ何も考えないで聴いてほしい。知らない曲でも超面白い!みたいなこと絶対にある。音楽はそもそも、何も知らないでも楽しめるもの。だから、楽しみ方を教えてくださいっていう問いに対しては、そんなこと考えないでってのが僕の答えかな(笑)

常盤:
 なんというか、お客さんを楽しませるときに、演出を入れたり編成を変えたりといったような補助輪で音楽を楽しませるのではなくて、音楽それ自体でもって音楽を楽しませる、そしてそれができていないのは、まだまだ音楽家の努力不足だっていう、いわば正統派的なスタンスは、まさにプリモの芯だと思います。

永峰氏:
 そうだね、そして僕の芯でもあると思う。そもそも音楽ってのは、言葉を補完するために生まれたものだけど、言葉から独立することで音楽として純化されてきた。そうやって独立して発展を遂げてきた音楽が、現代ではまた映像であったりテキストであったりに支配されようとしている。でもそれは、音楽の在り方として僕は間違っていると思う。音楽が音楽として独立して今まではぐくまれてきたのに、現代に至ってはそれがまた元に戻ろうとしているのは、僕は違うといいたい。